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[町田市の土地家屋調査士・行政書士]

2025年07月02日

【越境した枝の切取り】

 最近、境界立会をしていて、越境した木の枝の処理に関して質問されることが何度かあったため、越境した枝の切取りについて紹介します。
 これまでは隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、自らその根を切り取ることができるとされているのに対し、隣地の枝が境界線を越えるときは、自らその枝を切り取ることはできず、竹木の所有者に対して枝を切除するように求めることができるに過ぎないとされていました(越境した枝を切って下さいとお願いするだけ)。所有者が応じない場合は、裁判を通じて強制執行するしかなく、手続きが煩雑でした。特に、隣地が所有者不明の空地や空家の場合、対処が困難でした。この問題を解消するため、民法が改正(令和5年4月1日)され、越境した竹木の枝の切取り関する規定が明文化されました。
 越境された土地所有者は、竹木の所有者に対して枝を切除するように求めることができる、という原則は維持しつつ、竹木の所有者による切除が期待できない次の3つのケースのいずれかに該当する時には、越境した枝を自ら切り取ることができるとされました。

【越境した枝を自ら切り取ることができる3つのケース】
@ 竹木の所有者に越境した枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき
・所有者に対する催告の方式は書面で行うことが想定される。「相当の期間」とは、2週間程度を要するとされる。
A 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき
・現地の調査に加えて、不動産登記記録、住民票といった公的記録を確認するなどの方法により調査を尽くしても竹木の所有者又はその所在を知ることができないときをいう。
B 急迫の事情があるとき
・台風等の災害により枝が折れ、隣地に落下する危険が生じている場合等が想定される。

【その他の注意点】
@越境した枝の伐採に掛かった費用は、原則として木の所有者に請求可能と考えられます。
・枝を切り取ることにより竹木の所有者が本来負っている枝の切除義務を免れること(民法703条)、枝が越境して土地所有権を侵害していること(民法709条)が根拠として挙げられます。ただし、所有者が支払いを拒否した場合、裁判で請求額を確定させる必要がある。
A越境した枝を伐採するために必要な範囲で、隣地を使用することができます(民法209条)。ただし、損害を最小限にする配慮が必要。

 今回の改正によって、一定の手順を踏めば越境した枝を切り取ることができると改正されただけであって、越境した枝を勝手に切っても良くなった、と改正されたわけではない点は注意が必要です。

【参考条文】
民法第233条(竹木の枝の切除及び根の切取り)
(1)土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。
(2)前項の場合において、竹木が数人の共有に属するときは、各共有者は、その枝を切り取ることができる。
(3)第1項の場合において、次に掲げるときは、土地の所有者は、その枝を切り取ることができる。
  1.竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき。
  2.竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。
  3.急迫の事情があるとき。
(4)隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。

民法第209条(隣地の使用請求)
(1)土地の所有者は、次に掲げる目的のため必要な範囲内で、隣地を使用することができる。ただし、住家については、その居住者の承諾がなければ、立ち入ることはできない。
  1.境界又はその付近における障壁、建物その他の工作物の築造、収去又は修繕
  2.境界標の調査又は境界に関する測量
  3.第233条第3項の規定による枝の切取り
(2)前項の場合には、使用の日時、場所及び方法は、隣地の所有者及び隣地を現に使用している者のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
(3)第1項の規定により隣地を使用する者は、あらかじめ、その目的、日時、場所及び方法を隣地の所有者及び隣地使用者に通知しなければならない。ただし、あらかじめ通知することが困難なときは、使用を開始した後、遅滞なく、通知することをもって足りる。
(4)第1項の場合において、隣地の所有者又は隣地使用者が損害を受けたときは、その償金を請求することができる。

民法第703条(不当利得の返還義務)
法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。

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